この書籍は臨床家向けとなっています。
専門的であり、論文形式の文体であることから“読みにくさ“があります。
ただ、
臨床家が患者さんに説明ができるように作られた書籍なので、粉々になるまで噛み砕いて”吃音”のことや”環境調整法”のこと、”M・R法”について解説されています。
吃音の治療の場合、病院内の治療だけで完結するわけではありません。
家庭内で親がサポートすることを必須とし、その割合の方が圧倒的に高いです。
親も臨床家になるくらいの覚悟が、吃音の回復には必要なのかもしれません。
子供には環境調整法、大人にはM・R法
吃音の歴史は非常に古く、日本では鎌倉幕府を開いた源頼朝に吃音があったと言われている他、世界では古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスに吃音があったと伝えられています。
人類が言葉を使い始めると同時に、100人に1人の割合で吃音者が生まれてきたと想像できます。
そんな吃音の長い歴史の中でも、吃音の治療は大きく2つに分けられます。
①直接法
②間接法
かつて日本では直接法による吃音矯正が精力的に行われていました。
当時は世界的にも臨床が進んでおり、吃音治療大国として注目されていました。
しかし、その効果があまり認められておらず、場合によっては悪化したとの記録も多く残っています。
今では、日本の常識は世界の非常識だとも言われています。
そんな中、近年で最も注目を集めており、効果も高いと言われる治療法というのが②の間接法になります。
当書籍にて解説される、子供向けの治療法である環境調整法も、大人向けの治療法であるM・R法も間接法であることを、まずはお伝えしておきます。
直接法は、実際に発音し、発生練習によって吃音の改善を図る治療になります。
間接法では、一切の発音をせず、頭の中のイメージによって吃音の改善を図る治療です。
環境調整法とは
- 対象年齢
- 幼児から学童低学年
- 効果
- 改善率59%
発話に関する処置をすることはなく、親子関係や家庭内環境、園や学校への関わり方を見直すことにより、子供が抱える負荷を取り除き、自然な発話になるように見守る手法になります。
吃音ドクターで有名な九州大学の菊池先生も環境調整法を推奨している他、多くの病院や施設にて活用されています。
子供に吃音があると、親は『なんとかしないと』と思うものです。
- ゆっくり話しなさい
- もう一度言ってごらん
- スラスラ言えたね
- 少しつっかえちゃたね
愛情から、親は上記の様な対応をとってしまうのですが、これらの対応はNGです。
表面上の発話に対して反応するのではなく、話している内容に対して反応するように心がけることが吃音改善には重要になります。
また躾や習い事についても、子供の為にとついつい厳しく過剰になってしまうものです。
環境調整法では、躾や習い事についても見直す様に指示されます。
親の精神状態がパンク
躾を辞めると、子供のイタズラはどんどんエスカレートしていきます。
さらには攻撃性も加わり、ケンカが増えていきます。
それでも親は辞めさせたり・怒るといった行為を制限される為、普通の人なら数週間で精神状態がパンクすると言われています。
僕にも子供が4人居ますので、この要求がいかに無理難題かが分かります。
親は良かれと思って取っている行動の中には、実は吃音の悪化を招く行為も多く含まれています。
これは親に限ったことではなく、兄弟も含めた家庭内、親戚、保育園、幼稚園、学校、習い事などにも言えることです。
そんな吃音のある子供を取り巻く環境について、一つ一つ見直して調整する方法が、環境調整法です。
M・R法とは
- 対象年齢
- 小学3年生~成人
- 効果
- 74%(改善:36% 低減:38%)
まず見て頂きたいのは、驚きの効果です。
実に74%の割合で『有効』だと公言しているところです。
子供向けの環境調整法についても、高い割合で効果が見込めていますが、そもそも子供の吃音は何もしなくても自然回復する確率が高いです。
それに対し大人の吃音の場合には、自然回復することはなく、治療の確立もされていません。
こんなに高い有効率は、M・R法以外にはないでしょう。
さらに驚くべき点は、重度の吃音者ほど効果が高いと言われていいるところです。
そんな画期的な吃音治療であるM・R法ですが、どんな内容かと言いますと、これまた斬新。
声を出した発生による訓練は一切なし。
頭の中でイメージする治療になります。
一見スピリチュアルな印象を受けますが、間接法による吃音治療は、世界でも注目を集めている治療方法なのです。
昔の人は知っていました。
“病は気から”というコトワザがあるように。
アスリートは知っています。
“イメージトレーニング”の重要性を。
偽薬を投与された場合でも、薬効があると信じている場合にみられる”プラシーボ効果”も、人間の想像を具現化する一例として存在します。
M・R法もただの仮説として提唱された吃音治療ではなく、臨床を重ねた上での医学的なに有効であると証明された治療法なのです。
第2層の壁
吃音は4段階に分別され、第1層が最も軽症であり吃音の始まりを意味します。
第4層が重度の症状を表します。
第1層
- 症状
- 連発、伸発
- 自覚
- なし
- 悩み
- なし
第1層の症状としては、『こここここんにちは』といった語頭を繰り返してしまう連発と、『こーーーんにちは』といった語頭を伸ばしてしまう伸発が見られます。
自覚はないため悩みとなることもありません。
どもりながらも、積極的に話すような状態を第1層と呼ばれています。
第2層
- 症状
- 連発、伸発、難発(ブロック)、随伴症状
- 自覚
- あり
- 悩み
- なし
症状として、『・・・』といった言葉が出てこない難発がみられる他、無理に言葉を出そうとする体の動きがみられます。
また“しゃべりにくさ“としての自覚はあるものの、悩みとして捉えてはいない状態を第2層と呼ばれます。
第3層
- 症状
- 連発、伸発、難発(ブロック)、随伴症状
- 自覚
- あり
- 悩み
- あり(小)
周りからの指摘などによって、吃音の異質さを感じ悩みとなります。
話しの内容ではなく、表面上の発声に意識がいくようになってしまう状態を第3層と呼ばれます。
言葉の言い換えや予期不安が始まります。
第4層
- 症状
- 連発、伸発、難発(ブロック)、随伴症状
- 自覚
- あり
- 悩み
- あり(大)
吃音を自分のコンプレックスとして捉え、悩みが大きくなります。
話すことを辞める、話す場面に行かないなどの回避の症状が現れた状態を第4層と呼ばれます。
第4層にいる吃音者の場合、あらゆる対策ができるようになっているため、表面上では吃音者ということが分からない場合がよくあります。
しかしM・R法を行う上で、必ず第2層を通る必要があり、周囲に吃音を晒す必要があるのです。
これまで吃音を隠してきた吃音者にとっては、非常にハードルが高いと思います。
しかし、恥ずかしい・恥ずかしくないというのは感情の部分に関しても、本書ではマインドシフトする方法も書かれており、吃音を隠す必要はないのだということを理解することができます。
見所は最終章
本書の見所は最終章にあります。
基本的に本書では、臨床家向けに書かれており、専門性が高くて論文形式な文体なので”読みづらさ”を感じます。
ただし、最終章については一般向けに書かれているように見え、少なくとも僕にはとても響きました。
あれです。
あの有名はシーンです。
踊る大捜索線で主役の織田裕二が放った一言『事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ‼︎』です。
最終章では、まさに現場で起きている事例を挙げて、その時の対応は正しいのかを問う。間違っていれば理由を挙げて、どの様に対処するべきなのかを教えてくれます。
『あ、コレやっちゃってる』というケースが本当に多いです。
また自分が吃音者なら『うん、うん、言われたことある』と納得の内容になっています。
最終章では、
①こんな行動を取っていませんか?
②こんな理由があり、やめて下さい。
③この様に対応して下さい。
と本当に分かりやすく書かれています。
最終章だけでも一読の価値はありますし、自分がどれだけ間違った認識をしていたのかが分かります。