とても変わった本の作りで、まず純粋に面白いなと思います。
証人喚問で登場する有名人の暴露話しや、医者が医学的に分析した松本さんは、医学的にも裏付けられた天才だという部分は圧巻でした。

HSPを公表している松本さんですが、本書においてもそれがとても良く分かります。

  • 対人距離が狭まることへの抵抗感や嫌悪感が強い
  • 子供の頃は家庭が崩壊するのではないかという不安感を抱えていた
  • セックス後に人見知りをする

意外にも松本さんに共感できる部分が多くあり、HSPという概念を通じて身近に感じることができました。
ただ松本さんのすごいところは本来弱点となってしまうはずの病理性を、うまく武器に変え才能に変えてしまっていること。
「毒をもって毒を制す」ではないけれど、弱点も使い方によっては大きな武器となることを学びました。

松本裁判

画像
評価
★★★
出版社
ロッキング・オン
発行日
2002/3/18
購入先
Amazon公式サイトへ

自明性の喪失

「当たり前」のことを「当たり前」とする。
人間には髪の毛が生えている、道路を走るダンプカーは仕事をしている、自分は自分だ。

人は「当たり前」であることをわざわざ悩んだりしません。
人間には髪の毛が生えており、生えているなら髪の毛を整えなければいけません。そこに疑問はなく毎日のルーティーンとして組み込まれ、お風呂に入って髪を洗い、家を出る前には髪を整えます。
歩道を歩いていると大きなダンプカーが通り過ぎていきます。大型免許を取得した運転手が工事現場から出てきた砂利を廃棄場へと運んでいる。見慣れた風景に、視界に入らないかもしれません。
自分は当然一人しかいません。幽体離脱したかのように、自分を俯瞰して見ることはなかなかできることではありません。

松本さんの場合には、
髪の毛が変えていることを疑問を持ち、整えたら整えたで良い時と悪い時があることに納得がいかないという理由から、坊主頭に。良い時も悪い時もあるなら、悪い時でいいから毎日同じコンディションでいたいと。
街でダンプカーを見かけると、車に乗っているのはデート中のカップルかもしれないと想像し、一人でクスッと笑ってしまうと。
自分を「あいつ」と言い、『ブラウン管のなかの僕が何を言うと、あいつはテレビの前で喜んでくれるかなと。僕が何を言うと、あいつが一番意外がるかなっていうようなことを考えながらやりますね。』と。

「当たり前」のことを疑うことを「自明性の喪失」というようで、そのようなことをするのは哲学者か「分裂気質者」かだと、本書に出てくる担当医は言います。

分裂気質

分裂気質を一言で表すと「一人で過ごすことが好きな変わり者」だそうです。

  • 雰囲気の変化に過敏
  • 対人関係から距離をとる
  • 性欲が乏しい
  • 行動や体験で喜びを感じにくい
  • 他人から評価に無関心
  • 感情面では冷たく、よそよそしい

本書の中では以下のようにも書かれています。

未来に起こり得る様々な出来事に怯えたり、憧れたりといった方向性を持っている。そのぶん過ぎたことにはこだわらず、ものごとを処理する上で、過去の経験や知識の蓄積が活かされない。ものごとを全体的に捉えるよりも微妙に変化して鋭く反応する。一般に情緒よりも知性に傾きがちである。情緒表現に乏しく感情の起伏や波はそれほどでもないが、ときに衝動性が高まることはある。

まるで人気占い師に占ってもらったかのように、見事に自分(僕)のことを言われているかのような文章です。
とてもHSPと共通点が多い気質だと感じますし、とりわけ刺激欲求も強いHSS型HSP寄りな気質だと思います。

循環気質

これから起こるであろうこと、身の廻りの僅かな変化を先取りしながら生きる分裂気質。
精神医学の分野では「アンテ・フェストゥム」と呼ばれ「祭りの前」を連想させます。
これに対して対照的であるのが「循環気質」で、「ポスト・フェストゥム」と呼ばれ「祭りの後」を連想させる生きかたです。
過去のこと、過ぎたことの取り返しのつかなさにこだわると言います。

本書では以下のように掲載されています。

過去に起こったことや過ぎてしまって取り返しのつかないことに執着し、こだわるという方向性を持っている。ものごとを処理する上では、常に過去の体験や知識の蓄積を参照しながら、現在の問題にあたろうとする。それゆえ、ものごとを総合的、全体的にバランスよく捉える能力に優れる。情緒表現が豊かで、感情には躁とうつの波が認められることもある。対人関係は柔軟で社交的であり、おおむね誰とでも親しくなれるし、集団のなかにあっては、場の雰囲気をコントロールする能力に秀でている。社会秩序を重んじ、おおむねそれを乱さないような行動する傾向がある。

こちらもHSPに似たような気質が感じられ、とりわけ刺激欲求がない非HSS型HSPのように思います。
分裂気質ではまるで僕のことを言っているかのように感じましたが、こちらは妻の気質にピッタリ当てはまりました。
妻はショッピングがとても大好きなのですが、悩んで悩んで悩んだ挙句に購入した洋服などでよく後悔をすることがあります。
「こっちの方が良かったかも」「数日後にセール品になってた」など買った後でもブツブツ念仏を唱えます。
わざわざ購入した後に同じ物や類似品を確認する意図が僕にはまるで理解できません。

新しい環境でもすぐに友達ができる社交性の高さがあるし、感情の波がとても激しいことなど、僕となにからなにまで対照的です。

松本裁判

画像
評価
★★★
出版社
ロッキング・オン
発行日
2002/3/18
購入先
Amazon公式サイトへ

松本病

松本さんはこれまで上記してきた気質を持つことが本書の中で明らかとなりました。
相反する両極の気質「分裂気質」と「循環気質」を併せ持つ松本さん。本書の中ではHSPについては触れられていませんが、僕が思うに松本さんも刺激欲求が強いHSS型HSPです。HSS型HSPはアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような精神状態とも言われ、これまた相反する両極の気質です。
一つどころか二つまでも、きっと明らかになっていない松本さんの気質の中には、まだまだ反発し合う両極の気質を併せ持っているのでしょう。いずれにせよ医学的にみても松本さんは常軌を逸する稀有な存在であることが証明されましたわけです。

精神医学には「一つの病気の種類として一般化できるものもあれば、その人に固有の病気としか言いようがないものも存在する」という考え方があるようで、本件においては担当医師は「松本病」と命名しました。

僕は「分裂気質」持ちでHSS型HSP。
妻は「循環気質」持ちで非HSS型HSP。
子供は「なんで?なんで?」と何でも疑問に思う「自明性の喪失」ならぬ「自明性の未発達」。
こ、これはもしや、うちは今「松本病」に侵されているのかもしれない、という雑念は置いておいて・・・。

本来であればどの気質もとても大きな悩みとなり、自分のデメリットとして生き辛さを感じてしまうものです。
HSPにおいても過剰に人に気を遣って疲れしまったり、敏感に周りの空気を察してしまい自分を犠牲にしてしまったり、光に、音に、味に、匂いに・・・。
「もう、自分がめどくさい」と思ってしまいます。

さらに未来が気になる、過去も気になる、そもそも未来も過去も存在するのか・・・。
頭の中が常にフル回転で、あっちも気になる、こっちも気になる。

「松本さん、お疲れ様です。」
と一言言いたい。

ただ普通に生きているだけでも大変だというのに、松本さんが「天才・松本人志」と呼ばれるにはやはり理由があって。
それを担当医師が見事に言語化してくれています。

やっぱり天才というのは、自分の中にいくつもの気質を併せ持ち、その病理性をうまく飼い慣らした人のことなんだなあ、と改めて思いますね。

うん、結局そういうことなんだな。
いかに自分を知るか、そしていかに自分を使いこなせるか。

同じくHSPを公表している田村淳さんも、同じようなことを言っていました。

自分の”個”を認識し、その”個”を磨くことによって、自分のやりたいこと、やれること、やらなければいけないこともみえてくる。

さらに乃木坂46の元メンバー『ひめたん』こと中元日芽香さんも著書『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』の中で同じように表現しています。
乃木坂46には選抜制度があり、選抜メンバーとアンダーメンバーという明確な線引きがある厳しい世界です。
その中で中元さんはなかなか選抜の席に座ることができず、試行錯誤の連続でした。やっとの思い出掴み取った選抜メンバーの席に座ることができたのは、1stシングル『ぐるぐるカーテン』から4年後の16stシングル『サヨナラの意味』でのことでした。
しかし、これまで自分の気持ちに気がつかないフリをして頑張り過ぎてしまった中元さんの心と身体は限界に達し、次の17stシングル『インフルエンサー』から休業を余儀なくされます。
休業中、生きづらさを助長している偏った考え方を見直すように自己分析を繰り返した中で「他人からどうみられているかといった視線や、他人の心の動きに敏感」だということを認識するようになったといいます。

のちにカウンセラーになって、この要素を生かした仕事ができているなと強く思います。自分に搭載された装備を正しく理解し、正しい使い方をすることの大切さを学びました。

自分のことを知っているようで、実は本人は気付いていないことって多々あると思います。
とくに自分のデメリットだと思っていることについては、あまり考えないように自らフタを閉じているなんてこともよくあります。

自分を知ること。
そして自分を活かすこと。

その大切さを教えてくれました。

自分を俯瞰で見ている

松本さんのもう一つ凄いところが『俯瞰力』です。

己を知り、自分を活かせる世界を見つけただけではなく、そこで本来の力を遺憾なく発揮できる能力が松本さんにはあります。
どんなに才能やセンスがあっても、勝負どころでしっかり結果を出せなければ一流にはなれません。

特にHSPの人は、人前に出ると緊張してしまい頭が真っ白になってしまったり、深く考え込んでしまい思いっきりに欠けてしまったり、人に見られていたり競争を強いられると本来の力が出せないものです。
僕は高校生の頃、強豪校の野球部に在籍していたのですが、本当に勝負弱かった。
誰よりも練習に打ち込んでいたし、ポテンシャルという部分においては引けをとっていなかったはず。それなのに貰ったチャンスを活かすことができず、3年間背番号を付けることはありませんでした。

松本さんは本書の中で以下のように言っています。

だからこう、いつも第三者的に自分を見てますね。「こいつはやってくれるよ!」って、すごい自信があるんですよ。「こいつは追い込んだら絶対やってくれる奴やから任しとけって」ってね。でもその自信は、僕じゃなくて、「松本」にたいしてのものですね。別の視点から自分のことを眺めているみたいな。

勝負どころで周りが見えずにガチガチになっている奴と、自分を客観的に見られる奴。
どちらが結果を残せるかは一目瞭然です。

多くの観客の前でも高いパフォーマンスを発揮するには、松本さんのように一歩引いたような、でも自分を信頼しているような、平常心に近い状態でいられる境地が必要なのかもしれません。

「自明性の喪失」「分裂気質」「循環気質」「HSS型HSP」と病理性を飼い慣らし、「俯瞰力」という病理性で力を発揮する。

毒をもって毒を制す

うーん、天才ですね。

松本裁判

画像
評価
★★★
出版社
ロッキング・オン
発行日
2002/3/18
購入先
Amazon公式サイトへ