「ひめたん」の愛称で親しまれた乃木坂46の元メンバーで、現在は心理カウンセラーとして活躍している中元日芽香さんのエッセイをHSP目線で紐解いてみます。

自身のブログでHSPであることを公表している中元さんですが、本書の中でも「他人からどう見られているか気になる」「他人の心の動きに敏感」などの自身の特徴を挙げています。
カウンセラーとなった現在、このような特徴が仕事で生きていると語り、『自分に搭載された装備を正しく理解し、正しい使い方をすることの大切さを学びました』という言葉はとても印象的でした。

HSP目線で読んでみたところ、3つのポイントがありました。

  • 多面的な人格の落とし穴
  • カウンセリングの必要性
  • トラウマの克服について

敏感で、繊細で、壊れやすく修復しにくい。
そんな生き辛さを抱えているHSPにとって、とても共感することができるし、これからの生きる糧になる話しが満載でした。

ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで

画像
評価
★★★★
出版社
文藝春秋
発行日
2021/6/22
購入先
Amazon公式サイトへ

多面的な人格の落とし穴

人は誰しも「オンのときの顔」と「オフのときの顔」を持ち合わせています。中にはもっと多くの顔を持つ人もいるでしょう。
中元さんも多くの顔を持つ一人で、アイドル活動をしている時は『ひめたん』という人格が現れるといいます。

猫をかぶる、という言葉がありますが、私の場合はかぶれる猫が何匹かいて、その場に適した猫をかぶるようなイメージでこれまで生きてきました

とくに敏感で繊細なHSPの人にとって、多面的な人格は標準装備された機能なのかもしれません。

多面的な人格のメリット

HSPを公表している有名人の方は、表現や言葉は違えど非常に高い確率で多面的な人格について言及しています。

例えば・・・

EXILEのATSUSHIさんも自身の著書『SIGN』の中で「佐藤篤志」と「EXILE ATSUSHI」を明確に区別をしていました。
また田村淳さんも著者『行動力』で多くの#ハッシュタグを持つことを薦めているし、SKE48の元メンバーである大木亜希子さんもアイドルという人格を持っていました。
松本人志さんは「芸人・松本」と「裏方・松本」を仮面という言葉で表現していたりしています。

多面的な人格を持つことで、普段の自分では引き出せないような力を発揮できたり、その場の雰囲気に溶け込むことができたり、頭を切り替えられたり、とパフォーマンスの質を上げられるメリットがあります。

中元さんも本書の中で以下のように言っています。

私には行動や感情のリミッターを振り切ることが難しくて、なかなかできません。無自覚に制御してしまう造りになっています。でも彼女を纏うと途端に視界が開けるような気がします。ひめたんの言動は潔い。感情の針が大きく振れて忙しいです。

一流と呼ばれる人達にとって多面的な人格を持つことは、欠かすことができない仕事道具のようなものなのかもしれません。

多面的な人格のデメリット

一方で、多面的な人格を持つことによるデメリットについても考えなくてはなりません。

オンのときの人格は意識高い系へと変貌することが多く常に気を張っている状態が多い。
オンとオフがしっかり切り替えることができないと、家に帰っても、お風呂に入っていても、食事の時でさえも意識高い系が妥協を許してくれません。これでは気が休まる暇がありませんよね。

またあまりにも無理のある人格を持ってしまうと、いつしかコントロールが効かない状態になってしまうことも・・・。

私はひめたんをコントロールしきれなくなっていたのかもしれません。別人格といえど身体は一つです。それなのに、私は「疲れたよー」という声をひめたんが聞いてくれなくなった。家に帰ってもひめたんが抜けきれず、私はどんどん侵食されていき、最後完全に乗っ取られそうになった。

まるで多重人格者の映画のワンシーンのような光景が目に浮かのですが、意外にも似たような場面を経験していることってありませんか?
僕も納期に追われてる時期などは、家に帰っても仕事のことが頭から離れなかったり、悪夢にうなされるようなこともあります。
でもこれって長期に渡って続くわけではなく期間限定であり、たまにあるという程度です。

これが慢性的に続くと、いつの日かプツンと糸が切れたように体と心が動かなくなってしまう恐れがあります。

確固たる《素》の自分を持つこと

ここで普段はあまりフォーカスされない《素》の自分が、実はとても重要なんじゃないかと思うに至ります。

家にいるときの自分や家族といるときの自分。物心ががつく頃からデフォルトとして設定されている自分って、あまり普段から意識していないと思いますし、実はあまり好きじゃなかったりすると思います。

僕は吃音という言葉の障害があるため、家族といるときでもあまり話しをする方ではないし、家事や育児を積極的に手伝うものの「要領が悪い」といつも嫁さんに叱られます。
子どもにイライラしてしまい、すぐに怒鳴り声をあげてしまうし、時には物に八つ当たりしてしまう(子どもに手をあげることは禁止していますが・・・)。そのつど、罪悪感に苛まれます。

ああ、俺ってダメなヤツだな・・・

と自分を過小評価してしまっているんですよね。

僕はドキュメンタリーの本が大好きで、多くの有名人のエッセイなどを読んできましたが、有名人でさえ意外にも《素》の自分を過小評価していることが多いんですよね。
EXILEのATSUSHIさんでさえ、煌びやかなステージで歌うEXILEのATSUSHIでいる時と、ホテルに戻ったときの佐藤篤志とのギャップで吐き気や目眩がすると言います。

ATSUSHIさんの著書『SIGN』には「生きてほしい」という強烈なメッセージが書かれていると共に、とても感銘を受けた言葉「自分のルーツを大切にする」といったことが書かれています。

どんどん進化を続けるEXILEについていけなくなったATSUSHIさんは精神崩壊してしまう時期があったものの、海外留学によって現場が離れ、自分を見つめを直し、自分の「ルーツ」というものを確立した。

本書においても、中元さんが自分のルーツを大切にして《素》の自分というものを持っていたら、ひめたんに侵食されずとてもよい距離感でアイドルを続けられて、選抜メンバーとしての地位を確固たるものにできたのではないかと思うのです。

ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで

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評価
★★★★
出版社
文藝春秋
発行日
2021/6/22
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カウンセリングの必要性

怪我をしたり、風邪をひいたり、病気になったりと誰が見ても明らかな体の不調は病院に行って治療を受けます。
でも精神的なものや奇妙な不調(会社に行けないなど)はなかなかメンタルヘルスに行こうとは思えないものです。

精神病院、メンタルカウンセリング・・・
出入りしている姿を見られたくない。
そんな思いが足枷となっているのでしょう。

でも、やはりプロに話しを聞いてもらうというのはとても大切なことです。

中元さんもカウンセリングを受けて回復し、その職業に惚れ込んで自身もカウンセラーになったわけです。
また同じアイドルつながりの大木亜希子さんも病院に通うことの大切さを著書『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』で以下のように綴っています。

定期的に心の天気模様をプロに吐き出すことが必要な気がしている。

彼女の著書には、そんな先生とのやりとりがかなり細かく書かれていて、とても頼もしい存在であることが伝わってきます。
劇的に回復するための治療ではなく、基本は話しを聞いてもらうスタンスではあるものの、ここぞというときのアドバイスは効果的面で、このストレス社会に生きる僕たちにとってはもっと身近な存在であるべきだと思います。

トラウマの克服

僕は高校まで野球をしていました。
小学校、中学校までは4番でエースを任されるチームの中心的プレイヤーでした。
ところが甲子園常連の強豪校に進むと、全く自分の力が通用せず、高校三年間は1度も公式戦のユニホームを着ることができませんでした。

それ以降、すっかり自分に自信をなくし。
好きだった野球が見るのも嫌になり。
当時のチームメイトとも疎遠になりました。

中元さんが乃木坂46を「トラウマ」として表現していて、僕にとっての野球が「トラウマ」になっていることを痛感しました。

お医者は診断をくだし、症状が和らいで生活しやすくなるよう薬を処方してくれます。カウンセラーは話しを聞く中で、クライアントさん自身の心の内を引き出し、自らの力で問題を解決するお手伝いをします。でも結局、本質的な悩みを解決し、苦しみから救ってあげられるのは本人でしかないということを、普段のセッションをしながら感じます。

トラウマを抱える一人の元アイドルとして、またプロのカウンセラーとしての中元さんの言葉にはとても説得力がありました。

本書の中で中元さんは乃木坂46に再び向かい合い、トラウマを克服する場面が描かれています。
僕も野球に対するトラウマと向き合うときが来たのかもしれません。
母校の試合には卒業してから一度も見に行っていません。もう野球には興味がないと無理に自分を納得させ、トラウマから逃げていただけなのだと感じました。

今年は、青春時代になんども足を運んだ県営球場に行くことを誓いました。

ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで

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出版社
文藝春秋
発行日
2021/6/22
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