1989年9月、アメリカ合衆国コネチカット州ハートフォード郡ニューブリテンに生まれたメジャーリーグで活躍するプロ野球選手のジョージ・スプリンガー氏。
パワーのある打撃力に加え、ファインプレーによって度々チームの危機を救った高い守備力にも定評がある万能選手です。
2017年のワールドシリーズでは4試合連続、計5本の本塁打を放ち歴代1位タイ記録、また29本の塁打と8本の長打は歴代1位という偉業を成し遂げ、チームの初優勝に貢献しました。この年の最優秀選手賞を受賞し、メディアでも大きく取り上げられました。
メディアでは『吃音でイジメられた少年がWシリーズ5発でMVPに』という見出しで取り上げられ、世界中に大きな反響を呼びました。
自分と周りに隔たりを感じていた
「ずっと隔りを感じていた」とインタビューで明かしたジョージ・スプリンガー氏は、吃音によってイジメを受けていたことを明かしました。
クラスメートからは吃音の真似をされたり、「バカ」と呼ばれることもあったと言います。言葉を詰まらせながら話す吃音の症状は、明らかに周りの話し方とは異なるため、子ども達の興味を惹きつけます。始めは悪気もなく『面白い』から笑うことをキッカケに、どんどんエスカレートしていきイジメに発展するケースはよくあります。僕自身にも身に覚えがあり、高校生になっても冷やかしてくる大バカ者がいたことを今でも鮮明に覚えています。
吃音の進展には4段階に分けられ、最も症状が重いとされる第4階層の特徴には『回避』が挙げられます。回避とは『話す場面を避ける』行動で、例えば、発表がある日に休んでしまうなどの行為です。
ジョージ・スプリンガー氏はインタビューの中で、「人前を避け、電話にも出ず、レストランで食事のオーダーをするときは、妹に代わってもらっていた」と語っていることから、最も重度の吃音があったことが伺えます。
「言いたいことがあるのに言えないって最悪の気持ちだよ」とジョージ・スプリンガー氏は当時を振り返りました。
野球なら本当の自分をみてもらえる
年々ひどくなる吃音、専門家によるセラピーを受けるも効果は現れなかったと話します。
一方で野球をやっている時だけは、言葉に詰まることがあまりないということに気が付きました。
吃音がある有名人のエピソードとしてはよくある話しです。
朝の顔として定着したアナウンサーの小倉智昭氏は、テレビの中でどもっている姿を見たことがありませんが、家ではよくどもると話し、自らを吃音アナウンサーと呼びます。
俳優のブルース・ウィルス氏は舞台の上ではどもることがなかったと話し、演技の世界に没頭したと言われています。
ブルースギタリストのB.B.キング氏は、言葉は友達ではない、音楽やサウンドやリズムが友達だとコメントを残しています。
声優のこおろぎさとみ氏は自分の名前が言えないことで悩んでいたそうですが、姉の弾くピアノに合わせて歌うとどもることがなかったため、繰り返し歌って吃音を克服したと語っています。
吃音があるとどんな場面においても消極的になってしまい、なかなか本当の自分というものを表現できません。
しかし吃音の症状が出ない特定場面が見つかると、その分野において驚くほどの成果をあげる場合があります。
漫画家の押見修造氏は、吃音によって言いたいことが言えない気持ちを漫画に爆発させてきたと話しています。
ジョージ・スプリンガー氏にとっては、それが野球であり、唯一ハンデのない世界だったのです。
「野球が自分らしくいられるようにしてくれた。野球のおかげで人に本当の自分を見てもらえるようになった。」と野球への感謝を口にしています。
どもった自分を見てほしい
野球で成功し、本来の自分を認められるようになったジョージ・スプリンガー氏は語ります。「自分らしさの一部だとして受け入れたら、楽しめるようになってきたんだ。人生は短いから、自分でコントロールできないものならば楽しむしかないでしょ?」と。
2017年7月に開催されたオールスターゲームでは、マイクをつけて試合中に生中継でインタビューに応じ、本当に楽しんでいる姿がそこにありました。
職業上、インタビューを受けること多々ありますが、あえて積極的に応じるように心がけているといいます。
今ではどもることに対して全く意に介さず、それどころかどもった姿を見て欲しいと言う理由には、同じ吃音に悩む人が勇気づけられるかもしれないという想いがあるからだとコメントしています。
10月は全米いじめ防止月間とされており、いじめ防止キャンペーン「憎悪をなくそう」ではジョージ・スプリンガー氏がCM出演しています。吃音によってイジメられ、それを乗り越えてきた経験があることからの抜擢でした。
スポーツには、やりたいこと、自由に参加して話すこと、自分の殻から出てくることを可能にすると自身の体験を元に語ります。
自分は何者なのか?自分自身を手に入れることはなによりも重要なことだと強調しています。
まだまだ現役で活躍しているジョージ・スプリンガー氏には、これからも吃音者の希望となる活躍を期待します。