吃音があると生きていく上で様々な困難に遭遇します。当事者が最も困難に感じているのは学校の『授業』であり、次いで『就職活動』であるとのデータがあります。
吃音がある自分には、何ができるのだろう?
そんな悩みを抱えている方に是非とも参考にして頂きたいのが、書籍『吃音と就職:先輩から学ぶ上手に働くコツ』です。
吃音がある先輩達はどのように職を選び、どうやって就職したのか?やりがいは?吃音と上手に付き合うコツは?など、あなたの知りたいがきっと見つかります。
そして同じ様に悩み・苦しんでいる当事者へ向けた先輩達のメッセージは心に刺さるものがあります。
吃音がある自分に何ができる?
音があると学生時代はとても強い生きづらさを感じながら生活することになります。
思春期に入るとどもって話す姿をみられたくない一心で、挿入や言い換えなどのテクニックを使い、時には話すことを回避する癖がついていきます。
僕の学生時代では『イジメ』とは言わないレベルではありましたが、笑われたり真似されることは日常的にありました。
忘れもしない高校2年生の時のクラス替え。
当然の様に始まる自己紹介の流れに心臓が舞い踊ります。
既に1年間通っているだけあって、自己紹介など必要がないくらいクラスメイトのことは知っています。それでもクラス替え後の自己紹介は恒例行事だからと当たり前の様に始まりました。
淡々とこなされ、ついに回ってきた自分の番。
これまでも自分の名前に苦手意識はあったものの、なんとか捻り出せていた「言左衛門」の名前でしたが、この年始めて一言も発することなく先生から着席を言い渡されました。
自己紹介で名前を言うことができなかったのは、後にも先にもこの時だけです。
授業については「朗読」や「発表」に苦手意識がありましたが、僕の最も嫌だったことは日直の号令です。
日直は二人体制でしたので、黒板消しや掃除などあらゆる仕事は僕がするから号令だけはやってくれと、よく場面回避をしていたことを覚えています。
自己紹介で自分の名前を言えなかったショックから僕はどんどん自己嫌悪が強くなり、自分は劣った人間なんだと思うようになりました。
大学に入ってからは心の落ち着きを取り戻し、安定した生活を送れるようになりましたが、次第に見えてくるのは『就職』の二文字。
自己紹介もろくにできない自分に何ができるのか?
考えに考えた結論が営業マンでした。
どんな結末になったのかは編集後記で。
身近に仲間がいない
吃音があっても働いている人は当然います。
さらに有名人の方々にも吃音がある人が大勢います。
例えば・・・
・田中角栄
・江崎玲於奈
・小倉智昭
・マリリン・モンロー
・ハメス ・ロドリゲス
これはほんの一握りで、まだまだ多くの有名人の方に吃音があります。
これは本当に勇気を貰える事実である一方、なんだか飛躍しすぎて現実味がないとも思ってしまうんですよね。
身近に吃音のある友達や先輩がいて、当事者同士の苦労話や成功例秘話などを話すことができればいいのですが、なかなかそう上手くはいきません。
吃音者の場合、オープンに吃音を曝け出すことは少数派で、なるべくどもっている姿を見せないようにしています。
年齢が上がるにつれ、そのテクニックはいわば職人の域に達し、ほとんどの人からは吃音があるとは思われていません。
なので一般的な生活の中で同じ吃音者を見つけることはなかなか難しく、仮に『この人吃音者かな?』と思う人がいてもすごく親しい関係を築かなければ、「あなたには吃音がありますよね?」とは聞けません。
吃音者の最大の問題としては、身近に吃音について話せる存在がいないということなのです。
人生のターニングポイントである『就職活動』においても、上記の理由から『一人で悩む』吃音者が大多数を占めているでしょう。
一人で悩みだすと、どんどん悪い方へ悪い方へと考えが流れていきます。
その結果、自分の可能性を自ら抑制してしまい『やりたくもない仕事』にエントリーしてしまうかもしれません。
実際に仕事をしている先輩にインタビュー
ここでご紹介したいのが書籍『吃音と就職:先輩から学ぶ上手に働くコツ』です。
当書籍では実際に働いている、しかも比較的年齢層が低い20代から30代を対象に、吃音がある中での就職活動について、実際の業務についての「やりがい」や「困っている」ことなどが掲載されています。
小学校の先生、営業職、公認会計士、金融、アナリスト、公務員、製造業、栄養士、編集者、言語聴覚士、タクシー運転手など様々な分野にて活躍している先輩達の生の声を聞くことができます。
きっとあなたの『本当にやりたい仕事』に関するインタビューも掲載されていると思います。
仕事をする上で、やはり吃音によって困ることは多々あると話す一方で、吃音を武器にすることで評価を上げている人がいるというのはすごく勉強になりました。
是非とも参考にしてみて下さい。
次はあなたが伝える番
身近に吃音について話せる人がいない、吃音による仕事に関する相談ができないという悩みがある方に先ほどの書籍をご紹介しました。
実はもう一つ解決する方法があります。
それは自助グループです。セルフ・ヘルプ・グループとも言われ、当事者達が意見交換の集いです。
最も歴史が深く大きな団体だと『言友会』が挙げられ全国各地に支部があります。若者を主体としたメンバーで集まる『うぃーすた』では、上記で紹介した書籍『吃音と就職:先輩から学ぶ上手に働くコツ』の著者である飯村さんが代表を務めています。
僕のサイトでも、自助グループを紹介しているページがありますのでリンクを貼っておきます。
僕は自助グループにいまだ参加できていませんが、いつかは参加したいと思っています。
自助グループにてアドバスを貰い、就職活動を成功させ、仕事ができるようになったら、次はあなたが後輩にアドバスを送る番です。
編集後記(僕の場合)
最後までご覧いただきありがとうございました。
最後の編集後記では書籍『吃音と就職:先輩から学ぶ上手に働くコツ』でインタビューを受けていた方々に倣って、僕も同じように書いてみたいと思います。
僕は高校で吃音の状態が最も悪化し、大学では落ち着きを取り戻しました。落ち着きを取り戻しはしたものの、いつも吃音に怯えている深層心理に変わりはありませんでした。
迎えた就職活動では『こんな自分を変えたい』『吃音に勝負を挑んでやる』との決意から営業職という無謀な挑戦に打って出ました。
(やりたいことや特技が特に無かったというのはオフレコです)
仕事内容
会社は貴金属リサイクルの事業をしており、歯科医院を周りながら金歯や銀歯などの回収が主な業務となります。いわゆる『飛び込み営業』が主体の会社で、既存顧客については歯科医院からでる廃棄物の処理などのお手伝いも行なっていました。
営業する相手は歯科医院の医院長先生ということもあり、一癖も二癖もあります。笑
一度の飛び込み営業で契約までいくことはあまりなく、何度も何度も足を運びます。
顔見知りになって、信頼関係ができてきて、契約までしてくれた時には本当に嬉しく、スキップしながら笑みを浮かべて車に戻ります。
仕事を選んだ理由
編集後記の冒頭でも記載した通り、吃音との勝負であり吃音の克服を目指して営業職を選びました。
設定された目標の達成し、営業職で成功を収めることが出来れば、吃音の克服もできるのではないかと考えました。
仕事のやりがいや魅力
なんといっても、飛び込み営業において自分で新規顧客の開拓ができた時です。本当に嬉しく、周りの目も気にせずスキップしてしまいます。
また多くの人と出会い、話すことができるという点においては魅力の一つです。
就職活動のこと
僕の就職活動はリーマンショックの影響を受け就職氷河期と重なりました。
分野も業界も問わず、とにかく『営業職』だけをテーマにありとあらゆる会社にエントリーしました。
数打ちゃ当たる戦法で、いち早く就職活動を開始しました。
吃音の状態が悪い時だと、インターホンが設置されている会社に訪問しても名前がなかなか言えず切られてしまったこともありました。
僕は意外にも面接では強い方で、どもりながらも言いたいことは言えました。
早くから動いたこと、とにかく数を打ったことも功を奏して内定をいくつか貰うことに成功しました。
就職氷河期で大学の友達が困っている中、一足早く内定を決められたことは大きな自信になりました。
工夫していることや上手くできたこと
学生時代よりも社会人になってからの方がいくらかマシだと僕は思います。
初見の人には『名刺』という武器があるので、名前で詰まり聞き取りにくくても名刺で確認してくれる為、二度聞かれることはありません。
営業職であっても、手ぶらで訪問するわけではなく自社の情報がギッチリ書かれたパンフレットがあるし、必要に応じて資料を作ることができます。
単純な話術だけでは人よりもハンデがあることを百も承知している分、『準備』には人一倍時間をかけているので現場で焦ったりすることはありません。
成果を左右する大部分は準備した時間と内容であることは、吃音が有る無しに関係ありません。
これは吃音があるからこその力だと思います。
吃音がある人に伝えたいメッセージ
上記でご説明した営業職での経歴は新卒入社した時の話で、実は今は機械設計の仕事をしています。
営業職にうんざりし辞めたのではなく、家庭的な事情からの転職となりました。
実は吃音者に最も多い職業が技術職であり、まさに僕もその一人となりました。
なので僕は吃音者にとって選ばれやすい技術職も、選ばれにくい営業職もどちらも経験することが出来ました。
あくまでも、僕個人の意見を言わせてもらうと圧倒的に技術職の方がいいです。
二度と営業職はしたくないと思っています。
(営業職を若い頃に経験できたことは、自分にとって大きなプラスだとは思っています)
これから就職活動を始めるという学生さんへのメッセージとしては、やっぱり『やりたいこと』をまずやってみることを勧めたい。
20代のうちは、いくら方向転換してもいいと思います。
社会勉強として、自分の経験値の為と思ってやりたい仕事をまずはやってみて下さい。
やっぱりダメだったとしても、やらなかった自分よりも一回りも二回りも成長していることは間違いありません。