日本最大の自助グループ『言友会』を創設、世界44か国が参加する吃音国際連盟を設立した伊藤伸ニさんが『どもる君へ』いま伝えたいこととは何か?
- 吃音を治したい
- 自分に劣等感を感じている
- 友達が欲しい
そう強く考えているあなたに、是非とも読んで貰いたい一冊が『どもる君へ』です。
小学生、中学生向けに書き綴った内容ですが、30歳を超える僕の胸にも突き刺さるものでした。
こんな素敵な書籍と10代や20代で出会えていたなら、ちょっと違った未来があったのではないかと思えてなりません。
吃音を治したい
あなたは吃音を治したいと思いますか?
きっと多くの方が即答で「YES」と答えることでしょう。
僕は既に吃音を克服していて、どもることは多々あるものの劣等感や自己嫌悪や恥ずかしいといった感情を持つことはありません。
どもりというのはただの個性であり、自分の一部であると考えられるようになりました。
『吃音が有っても無くてもどちらでもいい』というのが僕の心境です。
こんな風に考えられる様になるまで随分と時間がかかりました。
学生の頃はどもる度に自己嫌悪に陥り、笑われたり・バカにされあることでさらに自分を嫌いになっていきました。
なんとかどもりを治したい
なんとかどもりを隠したい
恥ずかしい思いはウンザリだ
そんなことばかりを考えて学生時代を過ごしていました。
今思うとすごく不思議なのですが、それだけ悩んでいたくせに『吃音について徹底的に調べる』ということはしなかったんですよね。
「臭いものには蓋をする」みたいに、家にいる時とか時間が空いている時、なるべく吃音のことは考えないようにしていました。
デモステネス・コンプレックス
吃音者特有のコンプレックスの表現として『デモステネス・コンプレックス』という言葉があります。
古代ギリシアの弁論家で有名なデモステネスにも吃音があったと言われていて、海に向かって荒波の音に負けないように発声訓練をして克服したと伝えられています。
治ることばかりを考えてしまうことを『デモステネス・コンプレックス』と呼ぶのだけれど、その様に考えてしまうと失敗を恐れるようになってしまいます。
失敗を恐れるようになってしまうと『何もしない』『逃げる』という選択肢しかなくなってしまいます。
これは吃音の専門用語で『回避』とも言われ、吃音の進展段階でいう最も重症とされる第4層に属します。
伊藤伸二さんから『どもる君へ』
ここでご紹介したいのは伊藤伸ニさんの書籍『どもる君へ』です。
伊藤伸ニさんは「100年の世界各国での吃音研究の中で、治療法の確立ができていないのあれば、吃音は治らないものとして、吃音とどう付き合っていくのかを考える」ことを推奨しています。
吃音が治ればアレもコレもできるなどと考えていると、大事な『今』この瞬間を無駄に過ごしてしまいます。
それよりも吃音を受け入れ、その上でどんな幸せな人生にするのかを考えることが大切だと語ります。
僕たち吃音者にとっては、この『吃音を受け入れる』ことをして初めて『スタートライン』に立つことができるのです。
吃音があると将来の不安に押しつぶされそうになる時もあるでしょう。「こんな自分に仕事が務まるのか?」僕はよくそんなことを考えていました。
そんな不安を掻き消してくれる伊藤伸ニさんの話にはまさに胸を打たれます。
これだけ説得力があるのには、伊藤伸ニさんが世界中の吃音者と繋がりがあり、また他者をも繋ぐという偉業を成し遂げた人だからだと思います。
親友だと話す、吃音を武器に変えることで成功したスキットマン・ジョンとのストーリーは必見です。
スタートライン
冒頭でもお伝えした通り、当書籍は小学生や中学生に向けた伊藤伸ニさんからのメッセージです。
吃音者にとって『吃音を受け入れる』ことで初めて『スタートライン』に立つことができるという話しには僕も賛成です。
スタートラインに立つのは早い方がいい。
吃音を拒み続けるのではなく、吃音を受け入れ、さらには武器にすることで、あなたにしかできないことを成し遂げてください。
僕は20代の後半に、とある吃音改善プログラムによってこの心境に至りました。
その吃音改善プログラムは約3万円ほどかかりましたが、僕としては値段以上の価値を感じています。残念ながら吃音を無くすことはできなかったものの「吃音があってもいいや」と考え方が変わったことは、とても大きな財産となりました。
その教材と同じような効果が、書籍『どもる君へ』にはあると思います。
是非とも参考にしてみて下さい。
編集後記(吃音の変化について)
この書籍で僕が最も興味を持ったのが『吃音は変化する』という話し。
吃音の症状が現れ始める幼少期においては、酷くどもる時期もあれば、スムーズに話せる時期もあるという『波』が交互にやってくるというのは、よく聞く話しです。
しかし、伊藤伸ニさんの表現では仕事をしている大人にも『変化』があることを示唆しているように感じました。
確かに思い当たる節があります。
政治家や俳優、アナウンサーなどにも吃音がある有名人があるものの、テレビの前で酷くどもっているところを見たことがありません。
しかし、アナウンサーの小倉智昭さんは家に帰ると今でもどもっているといいます。
僕自身で考えてみても、これまで転職を2回ほどしていますが、職場が変わる度にどもりが酷くなり、時間の経過と共にどもりが穏やかになっていきます。
ただの『慣れ』でしょ?
と思われるかもしれないのですが、もしかすると吃音者は『変化に順応しやすい』体質があるのではないかと思いました。
吃音者は言語圏の違いに問わず、全人口の1%存在すると推測されています。そんな1%の少数派に関わらず、社会の至るところで吃音者が成果を上げており、社会のトップ5%には吃音者がゴロゴロいると語る専門家もいます。
本来、人は変化を嫌う生き物です。
しかし僕ら吃音者にとっては、生きていくこと自体が『激動の時代』です。
強制的に変化を与えられ、羞恥心という原動力によって乗り越えていくことで、もしかすととてもない才能が芽を出しているのもしれません。