もし私が吃音と闘っているすべての人と1点のアドバイスを共有できるとしたら、それはこれです。

あなた自身がゴールに向かって取り組むとき、あなたがその苦戦に直面して耐え忍ぶとき、あなたはこの課題だけでなく、将来の人生の課題を克服するのに役立つ新しい強みとスキルを発見することになります。

私はあなたに約束します。

ーあなたは何も恥じることはありません。
あなたの大切な仕事を諦めずに続けてくれたことに改めて感謝します。

今後のご活躍をお祈りしています。

上に掲載した言葉は、ジョー・バイデン氏がアメリカの吃音財団への手紙で、吃音当事者へ向けたメッセージです。

第46代大統領に就任したジョー・バイデン氏。年齢は78歳とアメリカ合衆国史上最高齢の大統領であり、なによりもアメリカ合衆国史上初めてとなる吃音がある大統領なのです。

幼少期から吃音による悩みを抱え、家族には度重なる不幸が襲う。
そんな彼の波瀾万丈な経歴から、「サバイバー」と呼ばれることもあります。

ジョー・バイデン氏の不屈の精神はどこからやってくるのでしょうか?

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ジョー・バイデンの経歴

1942年11月20日にペンシルベニア州スクラントンに誕生しデラウェア州ニューキャッスル郡で育ちました。

1946年の4歳頃から吃音の症状が現れ、言葉を強制的に吐き出そうと、手のひらを額に押し当てるなどの随伴運動がみられ、言語療法を受けるも望ましい効果はなかったそうです。

10代の頃には、毎日鏡の前に立っては懐中電灯を顔にかざし、アイルランドの詩をリズムに注意しながら暗唱し、つかみどころのないコントロールを模索していたそうです。

高校ではアメフトに打込み、当時を知るジャーナリストによると、「いずれ州を代表する選手の一人になったかもしれない」と話します。
大学では法学について学びシラキューズ大学で法務博士号を取得しています。

1969年に弁護士となり、1970年にデラウェア州のニューキャッスル郡議会議員に選出、1972年1月にデラウェア州の上院議員に当選します。当時29歳でアメリカ史上5番目に若い上院議員として政界入りを果たします。
この年の12月、クリスマスの買い物に出かけた妻(ネイリア・ハンター)と娘(ナオミ・クリスティーナ・バイデン)は不運な交通事故により帰らぬ人となってしまいます。

1977年に現在の妻(ジル・トレイシー・ジェイコブス・バイデン)と再婚。

2008年アメリカ合衆国大統領選挙でバラク・オバマと並んで副大統領に当選。
さらには2012年のアメリカ合衆国大統領選挙においても再選し、2期8年に渡って副大統領を務めました。

2015年、デラウェア州の司法長官を務めた長男(ジョセフ・ロビネット “ボー” バイデン3世)を脳腫瘍で亡くし、その悲しみから2016年にあったアメリカ合衆国大統領選挙を見送ります。

2017年1月12日、副大統領としての功労を讃えられ、オバマ大統領より文民に贈られる最高位の勲章である大統領自由勲章を贈られます。
受賞を事前に知らされていなかったジョー・バイデン氏は涙を流し、20分間にわたる即興のスピーチでこれに応えました。

2020年、アメリカ合衆国大統領選挙に民主党の大統領候補として出馬。
「歴史がこの4年を振り返ったとき、そこには異常さしか残っていないと思う。しかしトランプ氏が8年間ホワイトハウスに居座れば、トランプ氏はアメリカの本質や私たちの性質を永久に、根本的に変えてしまう。それを黙って眺めていることはできない」と述べ、見事当選。
就任前日の19日、地元デラウェア州でのあいさつでは「唯一の心残りはボーがいないことだ。大統領として彼を紹介したかった」と声を詰まらせ涙を流す場面がみられました。

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ジョー・バイデンと吃音

4歳頃から吃音の症状が現れたジョー・バイデン氏。
妹によると、毎日鏡に向かって詩を朗読し、懸命に発音を矯正していたと語ります。

吃音のある子どもの多くは、小学校や中学・高校などでいじめの被害にあいやすく、それはジョー・バイデン氏も例外ではありませんでした。
意味不明な言葉ばかり言うことを指すスラングである”ダッシュ”というあだ名をつけられたり、時には”障害のジョー”と呼ばれるなどいじめを受けていたと話します。

大人になるにつれて、吃音をバカにする人は減っていく傾向ですが、高校まではいじめが続くことが多いです。
幼い頃は興味心からくる悪気のない言動が多いものの、ある程度大きくなると敵意を持った悪質ないじめに変わることもあります。

ジョー・バイデン氏が高校生の時、朝礼では全校生徒が順番にスピーチをするのに、彼の順番は回ってこなかったと話します。
「今日でさえ、その時感じた不安感、恥ずかしさ、強烈な怒りを、当時と同じくらい鮮明に思い出すことができる」と数十年が経った今も、当時のシコリが残っているそうです。

今でこそ「ダイバーシティ」や「多様性」などの概念によって障害やジェンダーの壁がとても低くなってきましたが、当時は愚かにも教師が一緒になっていじめに加担することも多くありました。

ジョー・バイデン氏は「お前たち黙れ!」と言う時も「ユー、ガ、ガ、ガ、ガ、ガイズ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャラップ」とどもってしまう姿に、教師も「ミスター、バ、バ、バ、バ、バイデン!」と呼んだと言います。
ジョー・バイデン氏は吃音を「まるでモールス信号のようだった」と振り返ります。

第46代大統領となった今でも、自分の名前を言うのに苦労することがあると話す一方で、ここ数十年においては、伝統的な吃音に悩まされることはなくなったといいます。

吃音には重症度に合わせて4つのグループに分類されており、最も重いとされる第4層には、話す前に「吃るかもしれない」と不安になってしまう予期不安がみられます。
この予期不安が強いと、話す場面をさけたり、人前に出れなくなるなどの回避を繰り返すようになり、最悪の場合には『死』をも考えるようになってしまいます。

ジョー・バイデン氏は確かに吃音があるものの、その症状は軽度であり、事実「多くの群衆の前で話す時に心配したことがあったかどうかは覚えていない」といった心境であることから分かります。

吃音は目に見える症状に加え、吃音に対する自分の感情によって、重症度の解釈は大きく変わります。
ジョー・バイデン氏は吃音とうまく付き合っていると言えるかもしれません。

以前、メディアのインタビューの中で、アカデミー賞を受賞した映画「英国王のスピーチ」に言及したことがあります。
イギリス国王ジョージ6世が、吃音のコントロールに取り組む姿を描いた映画「英国王のスピーチ」で描かれているのと同じ方法で、自分の吃音に合わせて自分のスピーチを調整していると話します。

子どもの頃から鏡の前で発声練習をし、現在に至るまでもスピーチの研究を続けているとジョー・バイデン氏。
その並ならぬ努力と継続の力は、いつしか自信へと変わり、3億人を超えるアメリカ人の心を掴んだのでしょう。

吃音を消失することはできないかもしれませんが、吃音と上手に付き合っていくことは可能であることを学びました。

ジョー・バイデンに学ぶ、吃音と上手に付き合う成功法則

政治家として輝かしい実績を残しているジョー・バイデン氏ですが、子ども頃から吃音によって悩まされ、さらには悲し過ぎる家族の不幸が相次いで起こります。
それでも前を向いて立ち直ってこれたのは、家族や仲間の存在があったからだと思います。

2015年に長男のボー・バイデン氏が脳腫瘍で亡くなり悲しみに押し潰されそうになった時にも、戦友であるオバマ大統領から大統領自由勲章を贈られたことで、悲しみを乗り越えることができ、2020年の大統領選に踏み切れたのだと思います。

また子どもの頃に吃音で悩んでいた時には、母が心の支えになっていました。
「ジョーイ、吃音で自分を決めつけないで」
「ジョーイ、自分が何者であるかを思い出しなさい」
「ジョーイ、あなたならできるわ 」
と外に出るたび母親は励ましてくれ、「バカげて聞こえるかもしれないけど、これは本当に大事なことなんだ」と力強く振り返っています。

ジョー・バイデン氏の人生の分岐点となったのは、デラウェア州の高校のアメリカンフットボールチームに“居場所”を見つけられたことではないかと思います。
朝礼の恒例行事であるスピーチでは、順番が回ってこないなどの酷い仕打ちを受けたものの、アメリカフットボールという仲間がいてれたことは、何よりも心強かったのではないでしょうか。

試合で何度もタッチダウンを決める姿に、メディアでは「彼は吃音で苦しんでも、運動神経が彼自身を奮い立たせた」と報じました。
ジョー・バイデン氏も当時を振り返り「会話は不自然でも、スポーツをするときは自然そのものだった。私は吃音でも”俺にボールをくれ”といつも言う男だった」と話しています。

彼にとってアメフトは、暗いトンネルの中から見える一筋の光に見えたに違いありません。
居場所を作ってくれたこと、全ての人間が吃音を否定しているわけではないのだと教えられたに違いありません。

ジョー・バイデン氏から学ぶ、吃音と上手に付き合う成功法則は、

  1. 自分の居場所を見つけること
  2. 自分に合った方法で吃音をコントロールすること(継続は力なり)
  3. 家族や仲間を大切にし、素直に耳を傾けること

第46代大統領に就任したばかりのジョー・バイデン氏、人情に熱い政治家がどんな世界を作ってくれるのか、今後の活躍に期待です。

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